ディスるわけではありません。ユーザーや関係者の期待は大きかった。しかし、しかし……。“がっかりな”モデルを紹介していきます。健筆振るうはおなじみ岩貞るみこさん。年末年始の読み物「期待外れの車」シリーズ、好調。
ホンダ『NSX』が持つべきものは物語だ。1990年に初代が出たときは、打倒ヨーロッパの高級スポーツとして、日本中の期待と浪漫が注ぎ込まれたはず。開発には、アイルトン・セナや中嶋悟がたずさわり、登場を待つあいだ期待に胸がめちゃくちゃふくらんだ。
発売されたときの、あの高揚感。まるで日本中のクルマ好きが気持ちをひとつにしたような一体感すら生まれ、発売されてからもその威光は消えることなく、大盛り上がり。大和魂が刻み込まれた歴史に残るクルマだったはずだ。
2006年に惜しまれつつも姿を消してから10年後の再登場。その間、世界の経済状況やクルマをとりまく社会も変わったとはいえ、あのNSXである。しかもこんどは、先代の倍以上という2370万円という価格である。熱狂に包まれたあの物語の続きを夢見てなにが悪い?
ところが登場したのは、ドアをあけたとたんに膝からくずおれそうなほど、ちゃっちいインテリアの物語もへったくれもないクルマ。HVになって腹に響くエキゾーストノートよりモーター音が耳につくのは許そう。計器類の表示がゲーム機器のようでおもちゃっぽいのも時代の流れだ、受け入れよう。
しかし、インテリアの雑さだけは許しがたい。クルマのなかは、一番、ドライバーがいて、見てさわって、隣に乗る座る人に自慢する場所ではないか。しかも、購入時、ボディカラーを選ぶとオプションでやれ追加で67万円ですだの、インテリアはそれだと45万円かかりますだの、2000万円を超えるクルマでありながら、なにをごちゃごちゃ言っているんだ。クルマは、手に入れる前から物語は始まっているというのに、購入場面でわくわくさせるようなシナリオも思い描けない想像力のなさといったらない。
確かに売れている。そして、これらの意見は、手に入れられない人のひがみと受け止めてもらってもかまわない。でも、NSXというクルマは、乗る人だけのものじゃない。日本にNSXがあること自体が誇りなのだ。道を走る姿を見るだけでいい。夢の続きをいっしょに見たいのだ。日本人の思いと期待を裏切った背任罪で訴えたい気分である。